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大津地方裁判所 昭和57年(ワ)350号 判決

原告

中野忠男

ほか三名

被告

池田久輝

ほか一名

主文

一  被告らは各自原告中野忠男に対し八〇万五〇五〇円及び内六五万五〇五〇円に対する昭和五四年一二月一六日から、内一五万円に対する本判決確定の日からそれぞれ支払いずみまで年五分の割合による金員を、原告中野学に対し六四九万二三〇九円及び内五八九万二三〇九円に対する昭和五四年一二月一六日から内六〇万円に対する本判決確定の日からそれぞれ支払いずみまで年五分の割合による金員を、原告辻川弥生及び原告諏訪眞弓に対し各四六万三三六七円及びこれに対する昭和五四年一二月一六日からそれぞれ支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告らの、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮りに執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自原告中野忠男に対し四三一万四〇三三円、原告中野学に対し八七五万六四三五円、原告辻川弥生、同諏訪眞弓に対し各一六〇万九三五五円及びこれに対する昭和五四年一二月一六日から各支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求はいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五四年一二月一六日午後八時三五分ころ

(二) 場所 大津市大江二丁目一二番一四号地先国道一号線路上(以下本件道路という。)

(三) 天候晴

(四) 事故車・車種 大型貨物自動車(トレーラー、以下被告車という。)

(五) 右運転者 被告池田久輝

(六) 被害者の事情 訴外亡中野良子(当時五〇歳。以下亡良子という。)は自動二輪車(以下原告車という。)を運転し、原告中野学(当時一六歳。以下原告学という。)は右原告車に同乗していた。

(七) 事故の態様 被告池田は被告車を運転し、本件道路上において停止信号に従つて一時停止した後、発進したが、この際、自車を亡良子運転、原告学同乗の原告車に接触させてこれを転倒させた上、亡良子を自車の左後輪で轢過、原告学を本件道路上に転倒せしめた。

(八) 受傷の内容、その結果

(1) 亡良子は胸部挫傷、骨盤多発骨折により即死。

(2) 原告学は右第一足指基節骨々折、心因反応(異常体験反応)など。

2  責任原因

(一) 被告増田運送株式会社は被告池田の運転する被告車を保有し、運送業を営む会社であるところ、被告会社の従業員である被告池田がその業務執行中に本件事故を惹起せしめたものであるから、運行使用者として自動車損害賠償保障法三条により、

(二) 被告池田は自動車運転者として、本件道路上において発進するに際し、自車左側方に対する安全を確認して走行しなければならないのに、これを怠つて左に寄つて漫然発進した過失により本件事故を惹起せしめたもので、民法七〇九条により、原告らの被つた損害につきそれぞれ賠償義務がある。

3  亡良子の相続関係

亡良子の死亡により相続が開始し、原告中野忠男(以下原告忠男という。)は配偶者として三分の一、原告学、同諏訪眞弓(以下原告眞弓という。)、及び同辻川弥生(以下原告弥生という。)は子としてそれぞれ九分の二づつの法定相続分に従い、亡良子の権利義務一切を承継した。

4  損害

(一) 亡良子の損害 合計 二四八七万二一〇〇円

(1) 逸失利益 一四八七万二一〇〇円

亡良子は死亡当時五〇歳で、家庭の主婦として家事労働に従事しており、将来一七年間は稼働可能であつたと思料されるので、昭和五二年度賃金センサス(産業計、企業規模計、学歴計全国女子労働者五〇歳ないし五五歳の平均給与額)に五・九パーセントを付加した額(月当り一四万六六〇〇円)を基準とし、生活費の控除割合を三〇パーセントとした上、新ホフマン式により中間利息を控除すると、次の算式のとおり頭書金額となる。

(算式)

一四万六六〇〇円×〇・七×一二×一二・〇七七=一四八七万二一〇〇円

(2) 慰謝料 一〇〇〇万円

(二) 原告学の損害 合計九〇三万一三六〇円

(1) 入・通院中の損害

原告学は右受傷により長期間入・通院を余儀なくされた。

(イ) 治療費 一三五万七一〇二円

(ロ) 付添費 二一万円

(ハ) 入院雑費 八万六〇〇〇円

(ニ) 交通費 五万八九七〇円

(ホ) 慰謝料 一〇〇万円

(2) 後遺障害による損害

原告学は右受傷により、右足第一足指の用を廃したが、これは自賠法施行令の後遺障害別等級表の第一二級一一号に該当する後遺障害である。

(イ) 逸失利益 四三一万九二八八円

右後遺障害による原告学の労働能力喪失率は一四パーセントとするのが相当であるから、症状が固定した昭和五七年八月二七日(原告学一八歳)から原告学の就労可能最終年限である昭和一〇五年(原告学七四歳)までの四九年間の逸失利益は、昭和五二年度賃金センサス(産業計、企業規模計、学歴計全国男子労働者一八歳の平均給与額)に五・九パーセント付加した額(月当り一〇万五三〇〇円)を基準とし、新ホフマン式により中間利息を控除すると次の算式のとおり頭書金額となる。

(算式)

一〇万五三〇〇円×〇・一四×一二×二四・四一六≒四三一万九二八八円(円未満切捨て以下同じ)

(ロ) 慰謝料 一五〇万円

(3) 弁護士費用 五〇万円

(三) 原告忠男の損害 合計二五〇万円

(1) 葬儀費用 七〇万円

(2) 仏壇購入費 一〇〇万円

(3) 弁護士費用 八〇万円

(四) 損益相殺

原告らは自賠責保険より二〇一一万四二八〇円の支払いを受け、次のとおり充当した。

(1) 亡良子の損害に関し、逸失利益の内一〇六三万円及び遺謝料の内七〇〇万円(逸失利益残四二四万二一〇〇円、遺謝料残三〇〇万円、合計七二四万二一〇〇円)

(2) 原告学の損害に関し、治療費の内一三三万七六八〇円、交通費の内五〇〇〇円、入院雑費のうち四万三〇〇〇円及び遺謝料の内四九万八四〇〇円、(治療費残一万九四二二円、交通費残五万三九七〇円、入院雑費残四万三〇〇〇円、(ホ)の遺謝料残五〇万一六〇〇円)

(3) 原告忠男の損害に関し、葬儀費用の内六〇万円。

(五) 以上により原告忠男はその固有の損害金二五〇万円から前記(四)(3)の損害填補金六〇万円を差引いた残金一九〇万円に亡良子の相続分二四一万四〇三三円を加算した四三一万四〇三三円の損害賠償請求権を有する。原告学はその固有の損害金九〇三万一三六〇円から前記(四)(2)の損害填補金一八八万四二八〇円を差引いた残金七一四万七〇八〇円に亡良子の相続分一六〇万九三五五円を加算した八七五万六四三五円の損害賠償請求権を有する。原告弥生、同眞弓は各人亡良子の相続分一六〇万九三五五円あての損害賠償請求権を有する。

5  よつて、原告らは被告らに対し各自右各損害金とこれらに対する不法行為日である昭和五四年一二月一六日から各支払ずみまで、民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する被告らの答弁

1  請求原因1のうち(一)ないし(六)の事実は認める。(七)の事実は争う。(八)のうち亡良子が死亡したことは認めるが、原告学の受傷については知らない。

2  同2のうち(一)の事実は認め、(二)の事実は否認する。

3  同3の事実は知らない。

4  同4のうち(一)ないし(三)の事実は知らない。(四)の事実は認める。(五)の事実は争う。

三  抗弁

(免責)

1 本件事故は、亡良子の運転する原告車が被告車の左側方に追いつき被告車と本件道路北側の歩道との間に進入した際、同車前部に重い荷物を積み、後部荷台に原告学を同乗させていたため、ふらつき、ハンドルをとられて転倒した結果、発生したものである。従つて、亡良子および原告学に過失があるものというべきである。

2 被告らは自動車の運行に関し注意を怠らず、被告車の構造上の欠陥又は機能の障害もなかつた。

(過失相殺)

かりに、被告池田に本件事故の発生につき過失があるとしても、右のように原告側にも過失があるので、損害額につき考慮されるべきである。

四  抗弁に対する答弁

争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生

請求原因1の(一)ないし(六)及び(八)の(1)のうち亡良子が死亡したことは、当事者間に争いがない。

そして右争いのない事実に、成立に争いのない甲第一ないし六号証、乙第一号証の一ないし三、第二号証、第三号証の一、二、第四号証一ないし三、第五号証の一ないし三、証人田上順一の証言、原告学、同忠男、被告池田各本人尋問の結果に弁論の全趣旨を併せ考えると、次の事実が認められる(ただし、原告学、同忠男各本人尋問の結果中、後記信用しない部分を除く。)。

1  本件事故現場は、大津市内をほぼ東西に通じる国道一号線の本件交差点(信号機の設置のある変形交差点)西側の道路上である。現場付近の本件道路はほぼ直線、かつ平たんで、歩車道の区別のあるアスフアルト舗装道路であり、車線は中央のゼブラゾーンによつて南側西行車線と北側東行車線とに分けられ、北側東行車線の幅員は約四・〇メートルであつて北側歩道とは若干の段差が存する。見通しは良好で事故当時路面は乾燥していた。

2  被告池田は、昭和五四年一二月一六日午後八時三五分ころ、被告車(トレーラを含む全長一七・五七メートル、車幅二・四九メートル、車高三・九四メートル)を運転して、本件道路を石山方面から草津市方面に向け東進し、本件交差点手前で赤信号に従い一時停車した。この時、被告車と本件道路北側歩道との間隔は約一メートルで、被告車の車体は右歩道南端の線とほぼ平行に停止していた。続いて、原告車が被告車と右歩道との間に進入し、被告車の左側方に一時停止し、被告池田もこれを認め、気づいていたが、信号が青に変わり両車が発進した際、被告池田は自車左側方を全く見なかつた。そして、本件交差点に進入する直前、被告池田は自車左後側部に衝撃を感じ、交差点に入つた所で後方を確認したところ、路上に人が倒れているのが見えた。

3  他方、亡良子は右同時刻ころ、コンロを両足の間にはさんだ原告学を後部荷台に同乗させたうえ、原告車(車長一・八四メートル、車幅〇・六四メートル、車高一・二七メートル)を運転して本件道路を被告車に後続する形で東進し、本件交差点付近にさしかかつたところ、先に信号待ちのため一時停車していた被告車と右北側歩道との間に約一メートルの隙間が存したので、ここに自車を進入させ、被告車の左側中央部付近に一時停車したが、その後、信号が青に変わつたのを見て被告車とほぼ同時に自車を発進させ、原告学において「車が寄つてきたで」と注意を促したところ、「分つている」と答え、そのまま、交差点に入る直前で転倒し、亡良子は発進した被告車の前輪と後輪の間に倒れ込んで被告車の左後輪で、胸、腰部を轢過され即死、原告学も道路上に転倒し負傷した。

4(一)  事故後の被告車については、右後輪前、後両タイヤ及び同輪泥除鉄板部に数個の払拭痕が認められるほか、本件事故の痕跡は認められない。

(二)  事故後の原告車については、亡良子が倒れていた地点よりもやや北側の車道上に倒れており、右バツクミラーが曲損し、右ハンドル、右ステツプ及び右後部にそれぞ擦過痕が存する。

(三)  事故発生後、現場北側の歩道縁石側面には長さ一八センチメートルの擦過痕が存した。又路面には原告車のものとみられる長さ三〇センチメートル、幅一五センチメートルのオイル痕と原告車が路上を曳きずられた際に生じたものとみられる長さ九〇センチメートルの擦過痕が存した。

(四)  本件事故発生時において原告車の位置は被告車の左アンダーミラー、同サイドミラーの視界内にあつた。

以上認定した事実に基づいて原告車転倒の原因について検討する。

(1) まず、原告らは、被告車が道路左側に寄つて発進し、その結果原告車と接触してこれを転倒せしめた旨主張し、これに沿うものとして原告忠男、同学の各本人尋問の結果並びに乙第五号証の一(実況見分調書)中の立会人田上順一の現場指示説明記載部分(交差点手前にいる被告車の後部が振れるのと音を聞いた。)も存する。

しかしながら、原告学の供述については、瞬時の衝撃的体験に基づくものであることもあつて、例えば自己の転倒状況について、車道上に転倒したものと認定するのが原告車及び良子の転倒状況及び学の負傷の内容からして自然であり、これに沿う原告忠男の本人尋問の結果も存するにもかかわらず、原告学自身は歩道上に跳ねとばされた旨供述していることなど、その供述内容自体全体的にみてあいまいかつ不自然な点が多く、にわかに信用し難いばかりでなく、仮にこれを信用するとしても、原、被告車両は並進していたのであるから、一方の車が左方あるいは右方に寄つて他方の車に接近したとしても、これはいわば相対的な関係にあるといえるから、原告車の同乗者であつた原告学において被告車が自車の方に寄つてきたと感じたとしても、これのみをもつて客観的事実としてただちに被告車の左寄り発進の事実を認定することは困難である。

又、原告忠男の供述についても、同人が本件事故の目撃者ではなく、供述内容自体不明確であるばかりでなく、伝聞に亘るものであつて到底信用することはできない。

更に、乙第五号証の一(実況見分調書)中の立会人田上順一の現場指示説明記載部分(交差点手前にいる被告車が振れるのと音を聞いた)についても、証人田上自身の証言においてトレーラの後部がゆれるのをみたことはない旨証言しているばかりでなく、仮に右の如き指示説明がなされており、かつ、これに沿う事実が存したとしても、被告車後部の振れは被告車が良子を轢過した際の振れとみることもできるのであつて、この事実をもつて原告ら主張の右事実を認定することは困難である。

(2) 他方、被告らは、原告車が被告車と歩道の間に進入した際、ふらつき転倒した旨主張し、被告車と歩道の間隔は一メートル程度と狭かつたこと、原告車は後部荷台に原告学を同乗させており、同人はコンロを両足にはさみ、安定性を欠き易い状態であつたことも、さきに認定したとおりであるが、これらの事情のみをもつて被告ら主張の右事実の存在を推認することも困難である。

(3) 結局、原告車転倒直前の状況として、〈車両は極めて近接した位置関係にあつたこと、原告車側の事情として原告車は二輪車であるうえに後部荷台に一六歳になる、コンロを両足にはさんだ原告学が同乗しており安定性に乏しい状態にあつたこと、原告学が亡良子に対し、被告車との接近に気付いて注意を促したにもかかわらず、亡良子は気に留めなかつたこと、被告車側の事情として発進時左側方の安全確認を全く欠いていたこと等の事情から、双方の車両のわずかなハンドル操作等の誤りによつても両車の接触、原告車の転倒という事態が発生する危険性の存する状況の下で、原、被告車双方に相手車の動静を注視し適当な車間距離を保つて速度を調節しながらハンドルを適切に操作しなければならないのに、これを怠つて互いに接近、接触し、原告車転倒という事態を招来せしめたと推認するのが相当である。〉

二  責任原因

1  一般的不法行為責任(民法七〇九条)

前記一で認定した事実によると、被告池田は、被告車を運転して本件交差点の手前で信号機の表示に従つて停止し、信号待ちの後同車を発進させ本件交差点を直進しようとしたものであるけれども、停止中の被告車と本件道路北側の歩道との間隔はわずか約一メートルであり、この狭い隙間に後部荷台に原告学を同乗させた原告自動二輪車が進入し停止したことを現認していたのであるから、原告車自体車体の安定性に乏しいことも考え併せると、被告池田としては、信号に従い自車を発進させそのまま直進するとしても、自車の左側方を走行する原告車との間に不測の事態を招来する危険性も少なくないことを念頭におき、自車を発進させるに際し、確認が可能であつた左アンダーミラー、同サイドミラーにより原告車の動静を注視すべき注意義務があるものというべきである。

しかるに、被告池田は自車の左アンダーミラー、同サイドミラーによつて原告車の動静を確認することが可能であつたにもかかわらず、自車発進時その確認を全く怠つていたものであるから、被告池田には左側方の原告車の動静を注視しなかつた過失があると言わなければならない。

以上のとおりであるから、被告池田には民法七〇九条により本件事故による損害を賠償する責任があることは明らかである。

2  運行供用者責任(自賠法三条)

請求原因2(一)の事実は当事者間に争いがなく、したがつて、被告会社が被告車の保有者として自賠法三条に基づき本件事故による損害を賠償する責任があることもまた明らかである。

3  本件事故につき被告池田に過失があることが明らかであるから、被告会社の免責の抗弁は採用しない。

三  損害

1  良子の損害 合計二四六四万三九四一円

(一)  逸失利益 一五六四万三九四一円

成立に争いのない甲第三号証及び原告忠男、原告学の各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、亡良子は死亡当時五〇歳で原告らと同居して主婦として家事労働に従事していたほか、守山市の酒屋を手伝つていたことが認められる。そうすると、その労働を金銭的に評価すれば、昭和五四年度の賃金センサス産業計、企業規模計、学歴計、全国女子労働者五〇歳ないし五四歳の年間平均給与額である一八五万五〇〇円(月額一二万四六〇〇円、年間賞与など三五万五三〇〇円)とみるのが相当というべく、同人の就労可能年数を一七年として、新ホフマン式により中間利息を控除し、なお生活費については同人の年齢、性別、家族関係に照らし生活費割合を三〇パーセントとして、その逸失利益を算定すると、次の算式のとおり頭書金額となる。

(算式)

一八五万五〇〇円×〇・七×一二・〇七七≒一五六四万三九四一円(円未満切り捨て。以下同じ。)

(二)  慰謝料 九〇〇万円

被害者亡良子の年齢、家族関係、その他諸般の事情を考慮すると、亡良子の慰謝料額は頭書金額とするのが相当である。

2  原告学の損害 合計九一四万一五二八円

(一)  原告学の受傷、治療経過、及び後遺障害

原告学本人尋問の結果、成立に争いのない甲第四、第五、第八、第一〇、第一二、第一三、第一五、第二二ないし第二五号証によれば、原告学は本件事故により請求原因1(八)2のとおり受傷し、昭和五四年一二月一六日から同五五年二月四日まで医仁会武田病院に、同五五年四月一九日から同年五月二三日まで大津赤十字病院にそれぞれ入院し、同五四年一二月二八日から同五五年二月一四日までの間、合計七日間国立京都病院に、同五五年二月五日から同年三月一三日までの間、合計六日間大津市民病院に、同五五年五月二四日から同年七月二二日までの間、合計四日間大津赤十字病院に、同五六年六月二七日から同年七月一八日までの間、合計四日間大津市民病院にそれぞれ通院し、治療を受けたが、同五七年八月二七日に至つて症状が固定し、右第一足指IP関節0度強直の後遺障害を残したことが認められる。

(二)  治療費 一三五万七一〇二円

成立に争いのない甲第九、第一一、第一四、第一六ないし第一八、第二一ないし第二五号証によると、原告学は医仁会武田病院、国立京都病院、大津市民病院、大津赤十字病院、滋賀医科大学医学部附属病院における治療費として合計頭書金額を要したことを認めることができる。

(三)  入院付添費 五万六〇〇〇円

前記(一)認定のとおり、原告学は医仁会武田病院に五一日間入院しており、原告忠男本人尋問の結果、及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第一九、二〇号証によれば、右の期間中昭和五四年一二月一六日から同五五年一月一五日までの二八日間、原告らの親戚にあたる訴外北川光栄が原告学の付添看護をしたことが認定できるが、原告学の受傷の程度を考慮すれば右の期間付添看護を要したものというべく、その付添費は一日二〇〇〇円を限度として認めるのが相当であるから、これを算定すると次の算式のとおり頭書金額となる。

(算式)

二〇〇〇円×二八=五万六〇〇〇円

(四)  入院雑費 四万三〇〇〇円

前記認定のとおり原告学は本件事故により受傷して合計八六日間入院しており、入院雑費は一日五〇〇円とするのが相当であるから、これを算定すると次の算式のとおり頭書金額となる。

(算式)

五〇〇円×八六=四万三〇〇〇円

(五)  交通費 五万八九七〇円

前記認定の治療経過及び原告忠男本人尋問の結果によれば、原告忠男が原告学の入院先にバスもしくはタクシーで赴むき、その交通費として少なくとも頭書金額を下らない額を要したものと認められる。

(六)  逸失利益 五四二万六四五六円

前記認定の後遺障害は、その部位、程度によれば自賠法施行令二条別表第一二級一一号に該当するものと認められ、原告学は前記後遺障害のため、その労働能力を一四パーセント喪失したものと認められるところ、原告学の就労可能年数は昭和五七年八月六日から四九年間(満六七歳まで)と考えられるから、原告学の将来の逸失利益を新ホフマン式により中間利息を控除して算定すると、次の算式のとおり頭書金額となる。

(算式)

一五八万七五〇〇円(昭和五六年賃金センサス産業計、企業規模計、学歴計、全国男子労働者一八―一九歳、月額一二万二六〇〇円、年間賞与など一一万六三〇〇円)×〇・一四×二四・四一六≒五四二万六四五六円

(七)  慰謝料 二二〇万円

傷害の程度(入通院期間)、後遺障害、その他諸般の事情を考慮すると、その慰謝料として頭書金額が相当である。

3  原告忠男の損害

葬儀費用 七〇万円

原告忠男本人尋問の結果並びに成立に争いのない甲第二六、第二七号証によれば、原告忠男は夫として、亡良子の葬儀費に九八万七〇〇〇円を、仏壇購入費に四八二万円を支出したことが認められるが、そのうち本件事故の損害として被告らが賠償すべきものは葬儀費用七〇万円とするのが相当である。

四  過失相殺

前記一において認定したとおり、良子は自車を発進させるに際し、並進車である被告車と自車との近接状態、自車の安定性の乏しさを考慮し被告車の動静を注視しつつハンドルを適切に操作することを怠つたが故に、被告池田の前記過失と相俟つて接触、転倒し、本件事故を招来したものと認められるから、本件事故発生に関する良子の過失も決して無視できるものではないところ、前記認定の被告池田の過失の内容、程度、双方の車種の違い、本件事故の態様等諸般の事情を勘案すると、過失相殺として原告らの損害の二〇パーセントを減ずるのが相当であると認められる。前記三で認定した額につき右割合による過失相殺をすると、亡良子の損害は一九七一万五一五二円、原告学は七三一万三二二二円、原告忠男は五六万円である。

五  損害の填補

原告らが本件事故に関し、自賠責保険より合計二〇一一万四二八〇円を受領し、これを良子の損害のうち一七六三万円に、忠男の損害として六〇万円、原告学の損害のうち一八八万四二八〇円に、それぞれ充当されたことについては当事者間に争いがない。

そうすると、亡良子の損害は二〇八万五一五二円、原告忠男は零となり(四万円を後記損害からさし引く)、原告学は五四二万八九四二円となる。

六  相殺

原告忠男本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、請求原因3の事実が認められるので、原告らは良子の損害を法定相続分に従い、原告忠男は配偶者として全体の九分の三、その余の原告らは子としてそれぞれ全体の九分の二を相続により取得したものである。したがつて、亡良子の損害につき、原告忠男は六九万五〇五〇円、その余の原告らはそれぞれ四六万三三六七円を相続することになる。

七  そうすると、原告忠男は右四万円を差引き六五万五〇五〇円、原告学は五八九万二三〇九円、その余の原告はそれぞれ四六万三三六七円の各損害となる。

八  弁護士費用

本件事案の場合、審理経過、認容額等に照らすと、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用の額は、原告忠男につき一五万円、同学につき六〇万円とするのが相当である。

九  結論

以上のとおりであるから、本件損害賠償として、被告らは、各自原告忠男に対し八〇万五〇五〇円及び内六五万五〇五〇円に対する本件事故の日である昭和五四年一二月一六日から、内一五万円(弁護士費用)に対する本判決確定の日からそれぞれ支払いずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の、同学に対し六四九万二三〇九円及び内五八九万二三〇九円に対する昭和五四年一二月一六日から、内六〇万円に対する本判決確定の日からそれぞれ支払いずみまで年五分の割合による遅延損害金の、同眞弓、同弥生に対しそれぞれ四六万三三六七円及びこれに対する昭和五四年一二月二六日から支払いずみまで年五分の割合による遅延損害金の各支払義務があるものというべきである。

よつて、原告らの請求は右の限度で理由があるので、これを認容し、その余の請求をいずれも失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条九二条九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小北陽三)

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